地震をはじめとして、水害や大雨、土砂崩れにより避難所生活を余儀なくされるというケースは災害発生時にはつきものです。

しかしながら、避難所での環境はお世辞にもいいとは言えません。一応「十分なキャパシティーを持つ場所を確保すること」というお達しが自治体や官公庁から出ているため、場所等はある程度は用意されています。

その裏返しとして、多数の受け入れを前提としているため、場所と食べ物と布団という「必要最低限」以外については状況はかなり悪く、「屋内ホームレス」と揶揄されることもあるほどです。

そうした環境下では窃盗をはじめとした犯罪行為や、人間関係による軋轢、環境変化による困惑、そしてなによりそれらによって引き起こされる精神状態の悪化が危惧されます。

しかしながら、これらは状況が状況であることから、たいした対策を取ることができず、結果としてストレスが原因で諸症状をおこし、ひどい場合には心的障害に至る場合もあり、大きな問題としてのしかかってきます。

そのことよりもまず考えるべきであるのは、「危険性がより高く」「防止策が八割方取れる」問題についてであるといえるでしょう。集団生活において最も気を配るべきとされるもの、「感染症」です。


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避難所でなぜ感染症が頻発するのか?

体育館

避難所においては無数の感染症まん延の要因があると言っても過言ではありません。それは緊急性やキャパシティー、常備性を優先するために快適性といったものを切り捨てたがためという点が大きくはありますが、それぞれ対策法はあります。

そのため、ケース別に知識を身につけた上で適切な対応をすることが求められます。

過密空間による感染症リスクについて

人混み

収容人数重視のための過密な住居空間、これがまず大きな問題となっています。人と人との距離が近いというだけでウィルス感染の可能性は上がるのです。

つまるところ、無秩序に近隣住民を集める以上は数人は症状の出ていない、あるいは出ない体質の「キャリア」と呼ばれる存在が混在しているリスクは風邪程度の軽い病気を含めれば10割に近いとされています。

そして、風邪をはじめとしたインフルエンザや肺炎といったウィルスは「飛沫感染」という方法でその感染を広げていきます。

これはキャリアや感染者が咳やくしゃみによって体液の一部を空気中に飛ばすことで発生するという、イメージの沸きやすい感染方法です。

すなわち、人と人との距離が近いために感染者、キャリアのちょっとしたくしゃみの影響で簡単に感染してしまうリスクがある、ということです。

はぴーちゃんはぴーちゃん

ああ、確かに風邪防止のためにマスクをしなさいってよく言われるけどそれは飛沫感染を防ぐためだったのね。

たいさくんたいさくん

うん、「うつされない」「うつさない」を両立するために必要な事なんだよ。

また、もう一つの感染方法に「接触感染」というものがあります。これは感染者、キャリアによって病原体の付着したものを非感染者が粘膜などに接触させることでおこるもので、主に医療現場では注射針の使いまわしの徹底した禁止をはじめとした徹底的な対策がなされています。

しかしなにもこの感染は医療現場だけで起こる性質のものではなく、避難所や一般生活でも十分起こりうるものと認識しなければなりません。

最も多いケースが食器の使いまわしです。日常生活では体育会系部活動などに散見される「回し飲み」が代表として挙げられますが、そのほかにも箸の使いまわしなどで散見されます。

日常生活のそれは元気な人間がテンションを上げるためなどの理由で行っているため、実際に感染症に繋がるリスクはかなり少ないです。

しかしながら避難所では心身ともに疲弊した人間が「洗い物用の水がない」などの理由で繰り返し行わざるを得ないため、結果として弱った人間に回数を強いることになり、必然的に感染リスクも上昇します。

これらにより、感染症のリスクは「感染が非常に起こりやすい飛沫感染」「感染は起こりにくいものの重症化リスクの高い接触感染」ともに高まるといえます。

また、飛沫感染についても決して軽症のものばかりでなく、肺炎、インフルエンザなどの呼吸器系疾患をはじめとし、腸炎ビブリオ、ノロウイルス変異型に代表される消化器系疾患もあり、これらは食料バランスが比較的偏りがちな避難所においては重症化のリスクが大きく高まります。

引用:関西大学医学部発表資料

はぴーちゃんはぴーちゃん

確かに避難所で大規模なインフルエンザが起こった、なんて話も昔あったわね、でもどうして同じように混雑しているイベント会場なんかでは起こらないの?

たいさくんたいさくん

端的に言うと「元気」だからだよ。若くて、ちゃんと栄養を取っている人は病原体が体に入ってもちゃんとやっつけてくれるんだ。

はぴーちゃんはぴーちゃん

なるほど…「院内感染」と同じで、元気じゃない人やお年寄りの方にはうつりやすいって考えていいのね?

たいさくんたいさくん

そうそう、よく知ってるね。ただし、感染力の非常に強い種類もあるから、元気だからといって油断してはいけないんだよ。

キャパシティー不足による環境悪化から来る感染症リスク

はてな

避難所に指定されるような場所、主に学校付属の体育館は、その広さの結構な割合を災害時の食料、生活物資の備蓄に割いていると言われており、一般的には十分なキャパシティーを持っていると言えるでしょう。

しかしながら、災害時というのはいつの時も想定を超えてくるもの。予想を超える大規模災害の結果備蓄そのものが尽きるケースもあれば、備蓄食料の劣化などのトラブル、他避難所の崩落による受け入れ人員の急増やインフラ破壊による水の消耗スピードの上昇等、すべて過去の災害で起こったことです。

それゆえ、避難所生活においてはいかに災害が軽微であり早期帰宅が望めるにしろ、常にキャパシティーについて考えておくべきだ、ということですね。

はぴーちゃんはぴーちゃん

キャパシティーって確か「容量」とかの意味だったよね?それがこんなにも危ういなんて、災害対策としてもっと力を入れられないのかしら。

たいさくんたいさくん

まあ、そこから転じて「備蓄」として使うこともあるよ。危うさに関しては、お金よりむしろ過疎地域にもまんべんなく物資を準備するだけのマンパワーの不足が原因ともいえるね。

では本題に入りますが、なぜキャパシティー不足が感染症のリスクを上昇させるのか、ということについて説明します。

これは大きく二つに分けられます。すなわち、「衛生状況の悪化」「栄養状態の悪化」です。

衛生状態の悪化とはまあ、文字通りですね。体を洗うのに十分な物資がない、掃除をするのに十分な物資がないというだけでも感染症がまん延しやすい原因となりますし、排せつ物の処理に必要な水の量もなかなか馬鹿になりません。

水道の断裂は意外と簡単に発生しますし、給水車も決して十分な台数が揃っているわけではない、という状況を鑑みれば水不足という衛生状況の悪化の原因は十分に起こりうる、ということは念頭に置いておきましょう。

また、避難所生活のストレスから来る嘔吐による吐しゃ物の清掃も頻発しますが、これもまた水だけでなく殺菌用具や可能であればマスクなどが必要とされるため、枯渇の可能性も高く、先ほど申し上げた「接触感染」のリスクを経て感染症リスクを拡大させ得る、ということです。

加えて、要介護者、老人を避難させるときは、その生活の維持に物資のみならず人的リソースが割かれることや、専門的な介護道具に関してはそもそも備蓄がない、といったケースも多く確認されているために、十分な介護ができない結果として衛生状況の悪化が発生することになります。

多くの人間が共同生活を営まざるを得ない避難所生活においては互助精神よりも内的なストレスを外側に出してしまう傾向が強く、そうした面からマナーであるタバコのポイ捨ての禁止や避難所での深酒の禁止を破ったりと普段はしないことをしてしまったり。

あるいは散らかしたものを片づける、物資を適切に管理する等の普段はすることをしないでいてしまったりと、非日常故の過ちが結果として衛生状況の悪化を招くことを覚えておきましょう。

はぴーちゃんはぴーちゃん

なるほど、物資がないとあちこち汚れていくのね。確かに適切な消毒や他人への援助には適切な物資が必要だわ…

たいさくんたいさくん

それに加えて、必要な処理をすべき人間が疲弊したり他の仕事を充てられることで、優先順位の低めな「掃除」までは気を使えなくなっちゃうんだよ。

続いては栄養状況の悪化ですね。これについては最近改善されつつあるのですが、やはり日常的な食事とは程遠い。

確かにアレルギー物質を極力使用せず、味をできるだけ向上させるなどの努力はあるものの、「普段の栄養満点の食事」ではなくなってしまう。

そこには軽さやカロリー摂取を至上目標としているため、という面もあるのですが、どうしてもビタミンをはじめとした必須栄養素の偏りが生じてしまいます。

カリウムやナトリウムといった必須栄養素は含まれているために、疲弊しているとはいえ脂肪や筋肉といった蓄えがある元気な人間にとっては1か月程度であれば少し健康診断の数字が悪くなる程度で済みます。

しかしながら、そもそも普段から食生活が偏っている人間ややせすぎの人間、そしてロウスペックにとってはこれは脅威となり得るといえます。

食生活が偏っている人間については避難開始時にすでに強い栄養素の偏りが生じているリスクが高く、そこにさらに偏りが加わればそれがもとでキャリアから感染者となってしまうこともあるでしょう。そこまでいかずとも風邪などで「元気でない」状態に陥ることが予測されます。

続いて痩せすぎの人間と老人についてですが、これは元々「元気でない」ために感染症リスクが高いことは勿論、ストレスに対する耐性が一般人より低い傾向にある、とされています。

そのためにそれが原因で食欲のない状態になり、十分なカロリーがない状態であることから日和見感染(普段はかからない病気にかかるほど衰弱したために起こる感染)を起こすレベルになる危険性があります。

また、感染性は薄いもののカリウム不足に陥り、その結果として人員キャパシティーやカリウム物資が大量消費され、結果として他の感染症リスクを高めることも起こり得る存在といえます。

こうした人物を看護する人物の必要性を考えると広義の「感染源」と呼ぶこともできるため、かなりの問題となっています。

出典:千葉市公式ホームページ
参照:博士論文「療養環境における接触感染を予防する効果的な看護師の教育プログラムの開発」

はぴーちゃんはぴーちゃん

なるほどね、つまり元気が1番って感じで行けば大体大丈夫なのかしら?

たいさくんたいさくん

そうだね。元気であるということは基礎免疫力や抵抗力がたかいということでもあるからね、それがカギになるのは正しい理解だよ。

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避難所生活における感染症に対する事前にできる対策

リュック

さて、ここまで読んでいただいて避難所生活での感染症の概要とそのリスクの理由について理解していただけたと思います。

これは事実を伝えただけであり、決して「避難所は危険である」、と言いたいわけではなく、むしろ危険地帯から脱して一刻も早く避難所に向かうことを推奨するための土台なのです。

避難所は簡単な看護体制や地理的な安全性を十分に兼ね備えているため、倒壊、インフラ離断の可能性の高い場所に比べれば余程安全と言えるからです。

では、避難所に行った上で先ほど挙げた感染症リスクを回避するためには何が必要なのか?事前に何ができるのか?ということを説明します。

まず、最初に挙げた「過密な住居空間による飛沫感染」に対しては普通の風邪と同じくマスクで半分以上は対処可能とされています。

普段のように「咳が出始めたからマスクをする」ではなく、「常にマスクをしておく」というようにするとよいのではないでしょうか。

第二に、「物の使いまわしによる接触感染」についてですが、これは避難時に自分用の物資を持ち込むことでおおむね対応可能です。紙コップと割り箸を一袋ずつ入れておくだけでいいでしょう

はぴーちゃんはぴーちゃん

過密空間による感染症リスクは簡単に減らせるのね。

たいさくんたいさくん

そうなんだ。ストレスまでは減らせないけれど、ちょっとの準備で十分な効果が得られるのは大事な事だよ。

第三に、「キャパシティー不足による衛生状況悪化」についてですが、これについては中々難しいと言わざるを得ません。ミニサイズの殺菌道具やコンパクト化した介護道具を持ち込むことはまだできるかもしれませんが、水や人力を事前に持ち込むことはなかなかできません。

これに関しては「備えられる範囲で備える」という場当たり的な対応しかできないのが現実ですが、それでもできるだけのことをする、ということは大切です。

そして最後に、「栄養状況の悪化」ですが、これについては物を備えるというよりは体を備えることで解消できるでしょう。

偏った食生活により栄養の乱れが感じ取れている方はそこを改善しておけば必然的に避難所での罹患リスクが下がるばかりか、普段の生活においてもメリットは十分にあるといえます。

最も、多忙であったり食事制限が苦手な方には難しいかもしれませんが、、そういった場合にはサプリメントを用意することである程度対応可能です。

必須栄養素の中でも優先順位の高いカリウムはサプリメントで、ナトリウムは塩で簡単に摂取することができますし、ビタミンもマルチビタミンサプリメントでの摂取が可能となっており、その面は心配ありません。

しかしながら問題となるのはタンパク質と炭水化物です。どちらも筋力やカロリーといった重要なものの数少ない補給手段であるにもかかわらず、「手ごろな摂取手段」というものがないのが現状なのです。

その理由について詳細は省きますが、「食べ物1gあたりのカロリー量は米なら3.5カロリー、最も多い油でも9カロリー」という現象があるため、と考えればおおむね納得いただけると思います。

対して、老人であっても1日の基礎代謝(何もしていなくても消費するカロリー)は身長体重ともに平均値の70歳男性の場合1500カロリー前後とされており、いわゆる「白米に1汁1菜」の献立でこれくらいの数値になるとされています。

そのため、老人に関しては避難の際にサポートが必要なだけでなく、避難所において栄養面のトラブルとなり得ることから、平常時より心の備えが大切だと言えます。

はぴーちゃんはぴーちゃん

やっぱり物がないって問題への対処はなかなかできないんだね…

たいさくんたいさくん

そうなんだ。そして限られた中で何とかしないといけない以上、それぞれの人間が最大限の備えを以って望まなくちゃいけないんだよ。

はぴーちゃんはぴーちゃん

心しておくわ。それにしてもやっぱり老人問題というのは大変なのね…

たいさくんたいさくん

うん。限られたリソースの中で対応する以上はやはり少数の老人のために多大な労力を費やしにくい、という事情もあるから難しいところだよ。

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感染症という側面から見た「元気が一番」という考え方

元気な老人

さて、ここまで読んでいただいて、大体の避難所における感染症のリスクとその防止法について分かって頂けたかと思います。

災害発生の際に最も大切なものは「元気」です。それは「健康」であり「頑強」であり、そして「メンタルタフネス」であります。

今回はそのうちの「健康」という側面から「元気」を捉え、感染症対策のカギとして説明させていただきました。他の側面についてはいずれお話ししましょう。

とはいえ、災害という最大級の理不尽の中で「元気」でいることははっきり言って難しい。多くの場合、理不尽は人間の精神を超越する

だが、必要だから「元気」でいることは不可能ではない。

あるいはそれは本当の「元気」ではないのかもしれませんが、それでもそうして精神性を取り繕うことは理不尽に立ち向かう上で非常に有効と言えます。

たいさくんたいさくん

元気が一番!

はぴーちゃんはぴーちゃん

元気が一番!

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