津波地震という言葉をご存じですか?
読んで字のごとく、津波を発生させる地震のことです。1972年に地震学者の金森博雄理学博士が定義しました。

2011年3月11日に発生した東日本大震災による巨大津波が記憶に新しいと思います。このときの津波は波高10m以上、海岸から内陸へ駆け上がるときの高さを示す「最大遡上高」は40.1mにものぼりました。40.1mというのは7~10階建てのオフィスビルとほぼ同じ高さです。

日本最古の津波地震記録は、684年(天武13年・飛鳥時代)に発生した白鳳地震で、M8を超える南海トラフ巨大地震によるものです。この南海トラフ地震、これから先30年以内には必ず発生すると言われております。

「津波の被害は東日本大震災で痛いほど理解した」といえども、実際津波がどうして発生して、どこへ逃げればいいのか、どう逃げればいいのか分からないという方も多いと思います。

今回は、津波発生のメカニズムと、津波から命を守るためにどのような対策をすればいいのか、についてお話します。

たいさくんたいさくん

津波をテレビで見ることは合っても、実際に遭遇することはまれだから、高いところへ逃げるというのは頭で分かっていてもどのくらい?とか、どこに向かって?とか分からないことはたくさんあるね。


はぴーちゃんはぴーちゃん

津波がどういう仕組みで発生するのかを知ることで、命を守る対策も考えられたらいいね。

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津波が発生する仕組み

津波のメカニズム(内閣府・防災教育DVD「自分の命は自分で守る」より)

津波とは

そもそも津波とは、「海底・海岸地形の急変により、海洋に生じる大規模な波の伝播現象」を指します。台風によって引き起こされる高潮や、強風による高波とは異なります。波高が巨大になりやすいのが特徴です。

津波が起こる原因は地震の他に火山活動、山体崩壊(地震動や噴火により山の一部が崩壊すること)、まれに隕石の衝突などによって引き起こされることもあります。

記録に残る大部分の津波が、震源地が海底の地震によって引き起こされたものです。

東日本大震災の震源となったのは、宮城県県北部にある牡鹿半島の東南東約130kmの太平洋の海底にある、太平洋プレート(海洋プレート)北アメリカプレート(大陸プレート)の境界域であり、日本海溝と呼ばれる地域でした。

海溝

地震による津波は、このような海溝付近で発生することが多いと言われています。

海溝とは海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む「沈み込み帯」であり、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込むために生じる摩擦により地震が発生するからです。

なぜ津波は海溝付近で発生するのか

津波

海溝付近では地震が多いと述べましたが、津波もまた、海溝付近で高確率で発生します。それはなぜでしょうか。

海洋プレート・大陸プレートとは

そもそもプレートとは、地球の表面を覆う数十枚の岩盤のことで、厚さは100kmにも達するものです。

大陸プレート

海洋プレートとは、海洋底を構成するプレートで、「大洋中央海嶺」と呼ばれる、海底に存在する多数の火山が分布する「火山脈」から生成されます。

海洋プレートの地殻は火山岩の一種である玄武岩が主で、鉄やマンガンなどの重い元素が多い鉱物で構成されています。

大陸プレートは、大陸及びその辺縁部を占めるプレートで、運動速度は海洋プレートに比べ小さいものです。大陸プレートの地殻は花崗岩、堆積岩など、形成された年代によってさまざまですが、海洋プレートに比べ軽い鉱物で構成されています。

大洋中央海嶺で生成された海洋プレートは、しばらく地表を動いたあと、大陸プレートとぶつかります。
海洋プレートは大陸プレートに比べ強固で密度が重いため、この両者がぶつかると海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込み、海底よりさらに深いところへ沈み込んでいきます。

この沈み込みの部分が「海溝」です。

海洋プレートと大陸プレートがぶつかることで津波が発生する仕組み

海洋プレートと大陸プレートがぶつかり、海洋プレートが沈み込むとき、海洋プレートは大陸プレートの先端を押し込みながら沈み込み、大陸プレートの先端は強い力で下に巻き込まれていきます。

このとき、大陸プレートの内側は強い力で押されるため、上方へ隆起していきます。

圧力がさらにかかって限界に達すると、大陸プレートの先端が急激に持ち上がったり、大陸プレートに亀裂が入ったりすることで地殻が大きく動きます。地震はこのような仕組みで発生します。

このプレートの動きが海溝で発生することで、大きな波が発生し、周囲に伝播します。これが津波の発生する仕組みです。

大地震においては、数十kmから数百kmの範囲で、数十秒から数分の間に海底が一気に隆起します。この体積変化のエネルギーは巨大波長が非常に長いため、エネルギーがほとんど失われることなく津波となります。

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津波から命を守るためには

この大きなエネルギーの津波から命を守るためには、私たちは何をしないといけないのでしょうか。

たいさくんたいさくん

津波から命を守ることって、できるのかな。あんなに巨大なエネルギーに一瞬に襲われたら、どうしようもないんじゃないだろうか。

はぴーちゃんはぴーちゃん

大きなエネルギーを持って襲う津波だけど、実は過去に日本は何度も大きな津波に襲われているの。生き延びた人々も当然いて、その経験を語り継いでくれているんだよ。

東日本大震災から学ぶ

東日本大震災では、マグニチュード9.0という国内観測史上最大の地震となりました。地震そのものによる被害よりも、津波による被害が大きかったことが特徴として挙げられます。

津波は、北海道から関東にかけて観測され、漁港・港湾施設などの海に近い施設から平野部、住宅地に至るまで実に広範囲を飲み込みました。

大津波が、運転中の車を襲う映像、家を押し流す映像、目の前で人が流され、飲み込まれる映像などがメディアを介して連日報道され、被災地外で間接的にトラウマを負い、精神的に不安定になった方も多くいたと言われています。

地震が発生した際、津波を知らせるため防災行政無線放送では、地域によってその放送内容が変わり、ある自治体では津波の高さを3m程度と放送したために、自宅の2階へ避難しそのまま被災された方がいたそうです。なぜ、このような事態が起こったのでしょうか。

地震の規模が観測史上最大であり、地震の規模の予測が正確にできなかったことで、津波の情報も正確に得られなかったことが考えられます。

また、行政の防災関連の被災により続報が伝えられなかったこと、最初に予測された3mという言葉で「家の2階で大丈夫だろう」と認識させてしまったことなどが挙げられます。

これを受けて私たちは、今後の地震・津波被害をいかに最小限に抑えるか、いかに命を守るか、よく考える必要があります。

「津波てんでんこ」とは

「津波てんでんこ」という言葉をご存じですか?

津波てんでんこ
出典元:http://ikinokoru.info/

「てんでんこ」とは、「おのおの」「各自」を意味する言葉で、「津波がきたら家族を助けたり近所の人を助けたりしようと思わず、各自で逃げなさい」という教えです。

この言葉自体は1990年に開催された全国沿岸市町津波サミットにおいて、津波災害史研究家の山下文男氏によって提唱されました。

1933年3月、岩手県の現釜石市を震源として発生した昭和三陸地震で、山下氏は津波を経験しました。その当時には住民の間で「津波てんでんこ」という言葉はなかったものの、行動規範として浸透していたといいます。

「家族や大切な人を置き去りにして自分だけ逃げるのか」という批判もあったそうです。

しかし、「津波てんでんこ」という言葉は「自分以外の人間は見捨てる」という意味ではなく、「非常時に誰かを探すというタイムロスによる被災を防ぐ」ための約束事です。

また山下氏は、緊急時に弱者を助ける方法や互いの動き、避難時の連絡の取り方などをあらかじめ話し合って決めておくことで、「大変だ、あの人を助けなきゃ」とそれぞれが引き返して逃げ遅れることがないようにしましょう、と提唱しています。

「津波てんでんこ」で起きた「釜石の奇跡」

避難訓練

岩手県釜石市の小中学校では、日頃から「津波てんでんこ」を標語に避難訓練をしていました。

震災当日、地震発生直後には生徒がおのおの教師の指示を待たず避難したために、登校した生徒全員が生存という「奇跡」を起こしたと報道されました。

これは、日頃から避難訓練をしていたために、いざというときに生徒たちが冷静に判断でき、集団パニックに陥ることがなかったということが奇跡につながったと考えられます。

また、地域に浸透した「津波てんでんこ」の行動規範が伝承された結果とも言えます。

「津波警報が出たら高台へ」

津波警報が出て「津波の高さは約3m」と予測された場合、どうするのが正しいのでしょうか。

東日本大震災から教訓を得るとしたら、「何mであろうととにかく高台へ逃げる」が正解でしょう。

「約3m」はあくまで予測です。

大きな地震が発生した場合、地震や津波の規模を正確に把握することはまず不可能であると念頭に置きましょう。

津波警報で予測された津波の高さに関わらず、津波警報が発令されたらできるだけ早く、できるだけ高いところへ避難することが賢明です。

大地震によって引き起こされた津波は、数十kmから数百kmの範囲で、数十秒から数分の間に巨大で波長が非常に長いエネルギーとなり、あっという間に陸地に到達します。一瞬にして町を飲み込む大きな波に襲われます。津波に巻き込まれたら命はありません。

そういったことからも、「津波てんでんこ」でとにかくおのおので逃げることが重要となります。

津波から命を守るために必要なのは「過去からの学び」

津波2

大地震は過去の発生記録からみても、約100~200年のサイクルで発生していることが分かっています。

津波があった地域には、その地域独特の伝承文化・生活規範などが後世に伝えられ、当時の被害状況や生存者の語り継ぎ・研究により現代に伝えられています。

なぜ、過去の津波の被害を後世まで語り継ぐ必要があるのでしょうか。

それは、さほど遠くない未来に、再び大地震が発生し、同様の被害をもたらすことが分かっているからです。

先人たちの記憶と教訓を折に触れて学び、日常から防災に備えることで、そのとき消える運命だったかもしれない命をひとつ守ることができます。

近い将来必ず発生すると言われている「南海トラフ地震」でも、大きな津波が発生することが予測されています。

津波が発生した場合はとにかく逃げること、誰かを助けるために逃げ遅れることがないよう、非常時の家族・地域での役割や対策を十分話し合い、「津波てんでんこ」を念頭に置き、日々防災に備えましょう。

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