「火災」というのは「地震」や「津波」、あるいは「台風」のように、大規模な被害を出す災害ではありません。
しかしながら、自分の大切な家や家財道具が犠牲になってしまう災害であることに変わりはなく、なにより大規模災害と比べ、どんな人でも被害にあってしまう可能性が高い上に、発生頻度が格段に高いという特徴を持つことから、一般家庭においては天災の中でも特に注意を払う必要があると言えます。
そのため、火災自体を起こさないように注意することはもちろんですが、火災が起こってしまった際に全焼、延焼といった事態に至る前に初期消火活動をおこない、いわゆる「ボヤ騒ぎ」に留めることも肝心です。
その備えとしてやはり「消火器」の準備が最も有効であることは当然ですが、この「消火器」、準備こそしているものの、期限切れになっている古い消火器をそのまま置いているというケースが多く、買換えを考える際にも古い消火器をどうやって処分していいのかわからない、という方もいらっしゃるようです。
そこで本日は、消火器の使用期限や、消火器の買換え、ならびに使用期限の切れてしまった消火器の処分の仕方についてお話させていただきます。

え?確かに家に消火器はあるけれど、使用期限なんてあるの?

そうなんだよ。使用期限の確認をしていない人がほとんどだと思うし、今日はそのあたりについて説明するね。
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目次
消火器に関する基礎知識
まずは消火器に関する基礎知識のさわりについて説明します。消火器の買換えを考える上で、「自分に合った消火器はなんなのか」ということを知る必要は当然あります。
なにより、本当に自分の住む住宅や自分の勤め先にある消火器が本当にルールや必要性に見合ったものなのか、ということは知っておかなければなりませんからね、ちゃんと基礎知識を身につけておきましょう。
消火器を設置する義務はある?
まず、結論から言うと、一般家庭においてはどれだけの豪邸であっても消火器を設置する義務はない、とされています。
一方で、病院や老人ホーム、劇場といった自由に身動きをとることが難しい人間がいる施設はもちろんのこと、映画館やカラオケといった混雑が予想される施設に関しては、どれだけ小規模であっても消火器を設置する義務があります。
また、飲食店やホテル、学校といった避難が容易な施設や、避難用の場所があらかじめ用意されている施設については、ある程度以上の規模であれば消火器を設置する義務があります。
こうした施設にはもちろん火元責任者といって消火器の点検などを行う人間はいるのですが、個人経営の飲食店などではチェックがずさんなこともあります。
なので、火災が起こった時に自分が使うかもしれない、ということも考えると、あらためて自分でもチェックしておくとベターと言えるでしょう。
一般家庭では消火器設置の義務こそありませんが、やはり消火器がないということは火災が大規模なものになるリスクも大きくなるということなので、義務云々の話ではなく、自衛、マナーとして設置しておくべきであると言えます。
消火器には種類がある
では次に、消火器の種類について説明します。
まず、火災そのものの種類は、紙や木材などから出火する一般火災、天ぷら油や灯油などから出火する油火災、コンセントのショートなどが原因で出火する電気火災の3種類に大まかに分類されています。
そして、現在主流となっている「ABC粉末消火器」と呼ばれる、火の温度を下げる特殊な粉末を強い勢いで吹きかけるタイプの消火器は、一般家庭で発生する火災のレベルでいえば3種類すべての火災に十分対応可能です。
次に、「水系消火器」と呼ばれる、特殊な水溶液を吹きかけて消火するタイプの消火器は主に業務用のもので、油火災には強い効果があるものの電気火災に対応していない「泡を吹きかけるタイプ」のもの、精密機械用に電気火災を効率よく消火できるものの油火災に対しては逆に大火災を招いてしまう「霧を吹きかけるタイプ」のものなどがあります。
基本的に一般家庭でこうした消火器があることは希なのですが、誤った知識を元に購入したものや適当に用意したものの場合、肝心の火災に対応できないこともあるので念のためチェックしておきましょう。
また、古いタイプではありますが二酸化炭素を吹きかけて消火する「ガス系消火器」と呼ばれるタイプの消火器もあります。消火器としてはかなり古いタイプで、現在は主に専門施設に対してしか購入を推奨していないので新しく買ってしまう、というリスクは少ないと言えるでしょう。
ですが昔は一般家庭向きに販売されていた時期もあり、特に古い木造建築では使用期限を大幅に過ぎたガス系消火器が設置されている例も確認されています。
このガス系消火器、一般家庭においてとても起こりやすい紙、木材から出火する一般火災に対応できないという致命的な欠陥があるため、もしも自宅で確認された場合はただちに買い替えることを強くお勧めします。

なるほど…火を消すならどんな消火器でもできると思っていたけれど、そういうわけでもないのね。

そうなんだ。特に、間違った消火器を使っちゃうと、火を消せないだけじゃなく、逆に大火災になってしまうようなこともあるんだ。

どうしてなの?

天ぷら油とかから起こる油火災に水系消火器を使うのは熱い油に水をかけるのと同じことなんだ。だから燃えてる油が飛び散っちゃって、あちこちに火が広がっちゃうんだよ。
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消火器の使用期限は?
さて、ここまで読んで自宅にある消火器の種類や使用期限を確認された方の中には、「よく見たら水系消火器と書いてあった」「利用期限の欄を確認したら3年も前だった」などと気づき、「今すぐにでも買換えなくちゃ!」という方もいらっしゃるでしょう。
しかし、「期限は切れてるけどちゃんとABC粉末消火器だったし、別に買い替えなくてもいいんじゃない?」と思ってしまう方もいくらかいらっしゃると思います。
ですので、ここからは期限切れの消火器を買換えないことがどれだけ危険か、ということについて説明します。
消火器の使用期限について
まず、消火器の一般的な使用期限について説明します。
数年前までは業務用の消火器であれば10年、家庭用の消火器であれば5年というのが一般的でした。
しかし、後述する「リサイクルマーク」をはじめとした消火器関連の様々な行政によるサポートが見直された2010年を境に、家庭用でも10年の使用期限が定められたものが主流となりました。
そのため、ここ数年で消火器を購入した、あるいは新築物件に引っ越した、という家庭においては期限切れである可能性は比較的低いと言えるでしょう。
逆に、それ以前に消火器を入手したという家庭では、使用期限が5年の物であると同時に、既にその使用期限が過ぎてしまっている、という可能性が高いので、処分や買換えについて考える必要も出てきます。
期限切れの消火器はこんなに危険
では次に、期限切れの消火器に関する2つの大きな危険性について解説したいと思います。
まずひとつめは、破裂のリスク。
先ほど紹介したように消火器には様々な種類がありますが、どの種類においても「消火に必要な物質を高圧で吹き付ける」という原理は同じです。この「高圧」という部分が危険に繋がるのです。
イメージとしては「風船」ですね。風船を破裂させると風船の周りのゴムが辺りに飛び散りますよね?あれと似たような原理のことがもっと大規模で起こるわけです。
つまり、風船をはるかに超える高圧のガスが詰められた、鉄でできた消火器の破片が破裂の際にはすごい勢いで飛び散るということです。
事実、総務省消防庁の統計によると少なくとも過去10年間で25件の破裂事故が発生し、22件が重軽症を負っており、そのうち3名に関しては死亡にまで至るという深刻な事態が認められています。
これはあくまで把握されているだけの件数ですので、実態としては軽傷で済んだケース等も含めればこの数倍に昇るのではないか、と考えられています。
期限切れの消火器が破裂を起こすメカニズムは主に「腐食」「キズ」にあるとされています。
つまり、容器そのものが金属製であるためにどうしても経年劣化が起こってしまい、その結果として容器の一部が劣化し、破裂の原因となってしまうということです。
また、使用期限内であっても、落としてしまうなどの原因で傷がついた場合には同じような現象が起こりうるということを覚えておきましょう。
そしてふたつめのリスクとは、圧力の低下。
さっきも言ったように、消火器は高圧のガスを利用して、勢いよく内容物を吹き付けるわけです。
確かに消火器は非常に硬い素材でできており、高い密閉率をもっているといえます。しかしながら完全な密閉ではないため、少しずつではありますが消火器の中の圧力は減少していくのです。
さっきと同じように「風船」を例に挙げると、風船はそのままにしておくと、何日かするとちょっとずつしぼんでいきますよね?それと同じ理屈です。
風船の場合はしぼむだけですみますが、消火器の場合、圧力が下がってしまうと消火用の物質が勢いよく飛ばなくなったり、ひどい場合には出なくなってしまったりしてしまうのです。
そのため、いざ火事が起こった時に消火器のレバーを引いても十分に消火できない、というリスクがあり、これではもはや消火器として意味をなさなくなってしまうわけですね。
参照:総務省消防庁

期限切れの消火器ってこんなに危険なのね。気になって家にある消火器を見てみたら、使用期限が今年になっていたわ。

そうなんだ。だから絶対に期限切れの消火器をそのままにしておいちゃダメなんだよ。使用期限が今年なら早めに買換えを考えておいてほうがいいよ。

そうね。でも、消火器ってどうやって買換えたらいいの?古い消火器は普通ごみで出していいの?

絶対にダメ!そのあたりも含めて、具体的な消火器の買換え方と処分方法について見ていこうか。
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消火器を処分して買換える方法
さて、消火器の買換えと処分の方法について見ていきましょう。
それに加えて、処分の際に間違えやすいことや、買換えの際にこちらの無知につけこんでくる悪質な詐欺についても解説します。
消火器は処分時、普通ごみに出してはいけない
まず、消火器の処分の際においては、「普通ごみ」「資源ごみ」などのいわゆる一般ごみとして処分することは認められていません。
これは、先ほど申し上げた「期限切れ消火器が危険物にあたる」ということに関係しています。
一般ごみはそうした危険物が混入していることを想定していないため、ごみ収集車で圧縮して運ばれるうえに、ごみ処理施設においてもほとんどの工程が機会によって行われます。
そのため、その途中で硬くて大きい消火器本体が機械の故障を引き起こす、消火器が破裂してしまうなどといった危険性がとても高い、というのが大きな理由となっているわけです。
ではどうやって処分すればよいのか?
これに関しては近年消火器のリサイクルが進んだことに関連して、「消火器リサイクル推進センター」の指定する「特定リサイクル窓口」に依頼するという形になります。
窓口で申し込みを行った上で、約500円程度で販売されている「リサイクルシール」を貼り付ければ、後日業者が自宅まで引き取りに来てくれます。
特定リサイクル窓口は全国で5000カ所以上もあるため、ほとんどの家庭の場合近隣で手続きを行うことができます。
特定リサイクル窓口の場所については消火器リサイクル推進センターのホームページから検索することができるので、この手段を使って消火器を処分する方は調べてみてはいかがでしょうか。
また、ホームセンターや消防道具小売店などでは無料で消火器の下取りを行っている場合もあるため、近隣のそうした店舗で下取りサービスがあるようならそれを利用するという手もあります。
新しい消火器はどうやって買えばいい?
さて、このようにして古い消火器の処分は無事に終わるわけですが、当然ながら今ある消火器がなくなった以上、新しい消火器を購入しなければなりません。
その方法としては、まずは先ほど紹介したホームセンターや消防道具小売店での購入が挙げられます。
この方法を用いるメリットとしては、下取りサービスがあることに加え、専門知識のあるスタッフの助言を受けて購入することが可能である、という点にあります。
そのため、インターネットをあまり使いこなせない方やより確実な製品を入手したい方にはお勧めできる方法です。
次いで、amazonなどの通販サイトを利用する、という方法があります。
この場合、下取りに関しては自分で進める必要があるものの、購入自体をすべて在宅で行えるため、ちゃんと消火器の種類について理解している方であれば十分この方法でも対応可能といえるでしょう。
何より、店頭よりも安いものを選ぶことができる傾向にあるため、知識を自分で収集できる方や受け取りを指定した時間に行いたい、という方にお勧めできる方法です。
現在amazonで販売されているABC粉末消火器としては以下のようなものがあります。
ご覧のように、安くて小型の物から多少高いものの大型で噴射時間の長いものなどが揃っています。
購入される場合、自宅で起こりうる火災の規模を考えて購入するのがよいでしょう。
しかしながら、火災というのは初期に気づかなければどんどん火が大きくなっていくため、あまりに小型のものを購入することははっきり言ってお勧めしません。
買換えの時に注意!はびこる消火器詐欺
また、買換えを心のすみっこで考えながらも具体的にはあまり…という人が引っかかりがちなのが、消火器の押し売り、詐欺といった、「消火器詐欺」などと呼ばれるものです。
警視庁などの統計によると、消火器詐欺単体でのデータは出ていないものの、これを含む「点検商法」といわれる押し売りは毎年1万人を超える被害者を出しており、特に自分で調べる手段に乏しい年配者が引っかかってしまうケースが多いとされています。
その手口としては、まず「消防署の「方」から来ました」(消防署から来たとは言わない)という言葉に代表される様々な売り文句をもって消火器を点検する、という旨で消火器を確認。
そして、「耐用年数が切れかけている」「家庭用に設置するべき種類ではない」などと、ウソとホントを巧妙に使い分けた口上で現在設置されている消火器にケチをつける。
そのようにして無知な人間の不安を煽った上で市場価格の何倍もの値段で消火器を売りつけてくる、という悪質なものです。
基本的に消防署はもちろんのこと、防災器具小売店においてもこうした訪問点検の類は行っていない、ということをはっきりと覚えておきましょう。

なるほど…ルールはあるけれど、手続き自体は簡単なものなのねえ。

そうだよ。だから正しく処分して、自分に合った買換えを行うのは決して難しいことじゃないんだ。

それにしても、高齢者を狙った押し売りって本当にタチが悪いわね…

全くだ。そこまでの高額商品じゃないとはいえ押し売りは押し売り。親戚なんかにお年寄り世帯があるならひとこと注意しておくといいと思うよ。
いざと言うときのことを考えよう
確かに、火災というのは普通に気を付けて生活していればそうそう起こるものではありません。
しかしながら、もしも起こってしまった際には自分の持つすべてを失うことに加え、近隣の人々にも大きな迷惑をかける災害でもあります。
総務省統計局、ならびに消防庁の統計から算出した結果、人が住んでいる住居5000万件強に対して10万件以上の住宅火災が10年間で発生しています。つまり、500戸に1戸は10年間のうちに消火器が必要になる、といえるのです。
一見低く見えるかもしれませんが、決して起こりえないと言い切れるほど低い数字ではありません。
よって、起こりうる確率と起こったときに失うものの価値、消火器買換えの値段を総合的に考えた場合、必要に応じて消火器を買換えて「いざ」というときに備えることは十二分に意義のあることである、と結論付けます。

いざと言うときに使えないかもしれない消火器なんて、何の役にも立たないものね。

そうだね。なにより、「使えないものを使えると思ってしまう」っていうのは防災としてあってはならないことなんだよ。

なるほど。正しい処分をした上で、ちゃんと使える消火器に買換えて、常に使える状態にしておくことが大事なのね。

そうそう。消火器の値段はそんなに高いわけじゃないし、それで10年間の安全が買えると考えたら値段以上の価値は十分あるはずだよ。
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