現在日本で多発する大災害。被害を被るのは私たち市民だけではありません。

自治体、行政機関、民間企業、医療施設、商業施設など、実にさまざまな機関、場所が被害を受けます。熊本地震では熊本城が、北海道地震では神社が被災し、建造物の倒壊や石垣の崩壊などでたびたびニュースになりました。

さて、もし地震が発生し、ケガ人が出た場合、病気が発生した場合、どうしますか?病院に行きますね。

では、もし病院が被災していたら、どうしたらいいのでしょうか。

もし、あなたが現在、高血圧や糖尿病などの慢性の持病で毎月お薬をもらっていた場合、または人工透析、リハビリなど月に何度も通院が必要な処置を受けている場合、どうしたらいいのでしょう。

病院の被災で診察ができない、医療スタッフの被災で人手不足、製薬会社の被災でお薬が不足、などさまざまな事態が想定されます。

東日本大震災では、甲状腺のお薬を作っている製薬会社が被災したために、全国の甲状腺の病気を持つ患者さんへお薬が一時処方できなくなる事態が発生しました。

また、人工透析の機械が壊れたために本来週に3回の血液透析が必要な患者さんに治療が行えずやむなく県外へたくさんの患者さんが一時転院しました。

このように、医療関連企業の被災はそれこそ命に直結する非常事態と言えます。

こうした中で、持病があり通院をしている方はどのような防災対策が必要でしょうか。

また、持病を持たない私たちは、持病を持つ方に対して、災害時どんな配慮をすべきでしょうか?

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病院が被災したらこんなことで困る

治療ができない

医療器具の洗浄ができない、医療材料が病院に届かないなどの問題で治療ができなくなります。

患者さんの受け入れができない

病院の被災による損壊で、治療を要する患者さんの受け入れができなくなります。

医療情報の紛失

電子カルテを導入している病院の場合、サーバーの故障により今まで治療していた患者さんのデータがなくなる可能性があります。また、紙運用の場合でも、激しい汚染や損壊の可能性があります。

医療従事者の被災により入院患者さんの保護やケアをすることができない

最近新しく建て替えた病院では耐震構造になっているため、入院患者さんにとっては比較的安全な構造になっていますが、医療従事者は建物外で被災している場合もあります。そうなると、医療従事者の不足で入院患者さんの看護や処置をすることができなくなります。

はぴーちゃんはぴーちゃん

病院が被災したらこんなにたくさん問題が起きるんだね。じゃあ、それに備えて通院中の人は、避難生活を病気の悪化なく過ごすために備えないといけないんだね


たいさくんたいさくん

その通り。じゃあ、そのためにどう備えるべきかを今から考えてみよう

持病を持つ人の災害対策は?

持病とは、糖尿病や高血圧、慢性腎不全や喘息などの完治しない慢性疾患のことを言います。
こういった慢性疾患のほとんどは、継続的な投薬治療が必要となります。

しかし、大災害が発生し、病院が被災すると、お薬がなくなったときに出してもらうことができません。
定期的に治療が必要な人工透析患者さんは、治療が受けられなくなります。

病院が被災し、医療情報がなくなってしまうと今までと同じ治療を受けることができなくなることがあります。
では、こうなったときを想定して、持病を持った方はどう備えておくべきでしょうか。

お薬手帳や治療情報を記載した手帳を持ち歩く

お薬手帳ケース

お薬手帳には、今まで処方されたお薬やどんな病気の治療をしているのかが分かる大切な個人情報です。
案外持ち歩いていない人が多いのですが、これを持っていると、例えば突然意識を失って倒れたときにすばやく救助できることがあります。

はぴーちゃんはぴーちゃん

お薬手帳の他にも、糖尿病連携手帳・透析患者さん連絡帳・血圧手帳など、病気によっては専用の手帳を持ち歩き、記録をしている方もいるよ。これも緊急時には大切なデータだから、携帯しておくと便利だよ


たいさくんたいさくん

最近だと健康管理アプリもあるよ。スマートフォンが使えたり、たくさんの手帳を持ち歩くのが面倒だったりするときはアプリを使うという方法もあるね。

緊急時に備え、薬は少し余分に持っておく

近頃では患者さんから頼めば「災害に備えて」と2.3日ほど薬を多めに出してくれる場合もあります。主治医の先生に相談してみましょう。また、飲み忘れて余った薬を非常時用に置いておく患者さんもいます。
この場合はいくつか注意点があります。

  • 保存状態により劣化の可能性があるため、1年以上置いてあった薬は飲まない
  • 睡眠剤や精神安定剤などは、法律により1か月以上処方ができない
  • 発売開始から1年以内の新薬は、14日ずつでないと処方できない(既存の薬同士の配合薬は除く)

こういった制約のある薬もありますので、主治医の先生に必ず相談しましょう。

また、インスリン自己注射をしている方は、インスリンの他に手指消毒剤やアルコール綿、注射針などもいくつか備えておきましょう。

かかりつけ医以外の病院情報も見ておく

かかりつけ医が被災した場合は、その復興状況によっては転院を考慮します。
災害発生直後からしばらくは、医療ボランティアが来るまでは自力で乗り切らなくてはなりません。長いと1か月は覚悟しておかなくてはなりません。

特に透析患者さんの場合、かかりつけ医で透析ができなくなった場合は、透析を受けられる病院まで搬送してもらう必要があります。
どこの病院で透析ができるか、現在地からどのくらい離れたところにあるのか、などあらかじめ調べておきましょう。

日頃の食事療法や運動療法などで健康維持に努める

ウォーキングする人

実はここが一番重要です。生活習慣病の方には特に読んでおいていただきたい項目です。
日頃の生活習慣、健康維持活動がいざというときに命運を左右するといっても過言ではありません。

例えば地震で受診できない、お薬が手に入らない場合、普段から健康管理をしていて検査データも正常に近い糖尿病患者さんであれば、べらぼうに悪化することはまず考えにくいでしょう。

しかし、普段の食生活もあまり気にしない、運動もあまりしないために検査データが非常に高い糖尿病患者さんの場合、災害がきっかけで症状が悪化したり合併症が悪化することもあります。

糖尿病だと免疫力が低下しやすいため、感染症にかかりやすくなります。
また、神経障害が進行していると、足のちょっとしたケガがきっかけで切断にまで至るケースは少なくありません。

高血圧患者さんにしても、災害によるストレスで血圧が急上昇し、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす可能性があります。

また、人工透析患者さんも水分や塩分の適正摂取が守られないと、心不全を起こすことがあります。

災害時、医療機関や救急車は機能しないと言っても過言ではありません。このような事態を少しでも防げるよう、日頃の健康管理をしておきましょう。

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日常的に高度医療を受けている患者さんの場合

例えば、筋ジストロフィーや慢性呼吸不全、脊髄損傷などで在宅で人工呼吸器を使用している場合や、在宅酸素療法、人工透析などが挙げられます。
この場合、被災したらどうなるのでしょうか。非常に不安ですね。

医療機関や関連会社は、過去の災害での事例から多くの対策を行っています。

在宅酸素の場合

在宅酸素事業を展開している会社のうちの一つ、帝人ファーマ株式会社では「D-MAP」という安否確認システムを導入しています。
帝人ファーマ株式会社

このシステムは、一定規模以上の地震が発生した際に、被災地に住む在宅酸素利用者を特定し、被災範囲を社員にメールで教えてくれるシステムです。
このシステムを使い、本社から利用者一人ひとりに連絡をし、安否確認をすることができるようになっています。

詳細はリンク先に記載されていますが、東日本大震災では安否確認のできた利用者のもとへ酸素ボンベを運んだり、被災地の医療機関に一時的に酸素濃縮器を多数設置し、帝人ファーマ株式会社以外の在宅酸素利用者にも使えるようにしました。

在宅人工呼吸器の場合

人工呼吸器の場合は内部バッテリーを搭載している場合がほとんどなので、災害時ライフラインが途絶えても生命維持が可能です。

フクダ電子株式会社では、災害時の安全確保や人工呼吸器の操作方法などについてホームページで提示しています。
災害時の対応法 フクダ電子株式会社

また、緊急時は24時間電話対応を行っております。

人工透析の場合

透析中に災害が発生した場合は、早急に治療を中断し避難しなければなりません。
医療機関によって対応法が異なりますので、落ち着いてスタッフの指示を待ちましょう。

透析が必要なのにかかりつけの病院が被災して透析が受けられなくなった場合は、転院する必要があります。まずかかりつけ医に連絡し、転院する場合の移動手段や集合場所などの指示を確認します。

かかりつけ医に連絡が取れない場合は最寄りの保健所へ、保健所に連絡が取れない場合は指定の拠点病院へ連絡を取ります。

また、透析をする際の透析条件や注意点(血圧が下がるので昇圧剤を使っている、適正体重がどれくらい、何時間で透析をしているか、など)を把握またはメモしておき、転院先でも安心して透析が受けられるようにしておくといいでしょう。

はぴーちゃんはぴーちゃん

上記以外の事業所でも、在宅酸素を提供している会社や人工呼吸器を取り扱っているメーカーは多数あるから、今のうちにそれぞれご自身が使っている医療機器メーカーのホームページを確認しておいたらいいね


たいさくんたいさくん

介護が必要な方の場合は、ご家族の知識や協力が必要不可欠だから、ご家族の方にもしっかり確認してもらえるといいね

いずれの場合も医療機関への安否連絡が必要です

災害伝言ダイヤルで医療機関や事業所へ安否メッセージを送ることができます。

電話でのサポート体制が万全といえども、災害時は電話回線が混雑することと、サポートする側が電話対応に追われ本当に緊急対応が必要な方への対処が遅れる可能性があります。

災害時は必ず携帯電話またはスマートフォンを持ち歩き、災害伝言ダイヤルを活用しましょう。
災害伝言ダイヤル使用方法

たいさくんたいさくん

災害伝言ダイヤルは毎月1日と15日に練習で使うことができるんだよ。いざというときに使い方が分からない!ってパニックになることはよくあるので、この機会に練習しておくといいね


はぴーちゃんはぴーちゃん

メッセージの吹込みだけでなくて、文字でも安否報告ができるんだって。耳が不自由な人でも大丈夫だね

持病がある方に対し私たちにできることは

車いすの老人

持病があり、介護が必要な方の多くは、避難所で他人の目が気になる、または迷惑しないか気になるなどの理由で、指定避難所に行かず車の中や自宅で避難する傾向にあります。

車内避難は脱水や可動スペースが限られることで肺塞栓症を起こす可能性があります。
また、介護しにくくストレスのもとになります。

自宅避難でもそこから外に出ることができなくなる可能性があり、避難所で受けられる物資支援が受けられないという事例も多発しています。
介護が必要な被災者の情報を医療機関と自治体でしっかり管理把握する必要があります。

また、避難所でも介護サービスを受けることができます。市町村の介護保健窓口や地域包括支援センターへ相談すると対応ができます。
被災により対応が遅れる可能性はありますが、遠慮の必要はありません。

私たちにできることは、介護が必要になった方を優先的に避難所へ案内することです。
避難所ではプライバシーの確保が困難です。だからこそ、今まで壁に隔たれ見えなかった「介護する家族がいる状況」というものを見ることができます。

また、介護に必要な物資は避難所に届きます。紙おむつや介護食などが届いたら、介護が必要な方に優先的に届けて頂きたいと思います。

最後に:日常の備えが大事です

いざというときのために日常から非常食や非常用品などの備蓄を行うように、持病がある場合や介護が必要な場合でも日常での備えが必要です。

備えというのは何もものだけではありません。
災害時にどうすればいいか、という情報も備えになります。特に持病を持った方にとって情報というものは物以上に重要なものとなります。

また、介護を必要としない私たちにとっても、災害時の介護についての情報を持つことは避難所生活を安楽に過ごすうえで重要な情報となります。

非常用品を準備したら終わりではありません。逆に言えば災害対策は毎日できることなのです。
日々、少しずつ健康に気をつけて過ごし、いざというときに備えておきましょう。

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